Saturday, July 14, 2018

ロサンゼルス・タイムズ: 初めてのろうスーパーヒーロー物語を作る

初めてのろうスーパーヒーロー物語を作る
ミカエル・レクトシャッフェン

2018年4月12日


ろう映画作成者が作った映画において、通常素晴らしい音響デザインを期待することはあ
りませんが、エミリオ・インソレラが作成した映画「サイン・ジーン」では、素晴らしい
音響デザインに驚かせられます。
「X-man」「ダヴィンチコード」「007」のようなアクション要素と、ろうコミュニ
ティー上の歴史的な人物「ローレント・クレーク」「アレクサンダー・グラハム・ベル」
「ジーン・マシュー」とを融合して作成された「ろうスーパーヒーロー」物語はアメリ
カ、日本、イタリアにて撮影されました。
見えない弾丸によって撃たれたという不可解な事件を日本の警察が捜査するうちに、犯人
は「何世紀もの間、社会的また言語的抑圧を受け突然変異した遺伝子」を持った者の犯行
であるということを発見します。
それに続き、先に述べたような音響デザインとビデオエフェクトを使用、またろうキャス
トが手話やアクションを演じています。映画は力強く創造的で、ハイテンポで進んでいき
ます。
諜報機関のエージェントを演じる俳優でもある、映画作成者のエミリオがこの新鮮でユ
ニークな映画に、限られた予算とスペースにて、68分にどれだけの内容を詰め込んでいる
かというのは大変興味深いでしょう。







(原文)

http://www.latimes.com/entertainment/movies/la-et-mn-capsule-sign-gene-review-20180412-story.html

Inventive 'Sign Gene' chronicles derring-do of first deaf superheroes


One wouldn't normally expect to find such dazzling sound design in a production conceived and directed by a deaf filmmaker, but that's just one of the unexpected surprises surrounding Emilio Insolera's "Sign Gene."
Energetically blending elements of "X-Men," "The Da Vinci Code," 007 and martial arts wuxia while giving shout-outs to such historical deaf community figures as Laurent Clerc, Alexander Graham Bell and Jean Massieu, the lively experimental sci-fi film, shot in the U.S., Japan and Italy, is an origins story about the "first generation of deaf superheroes."
As Japanese police investigate a series of murders in which the victims have apparently been shot with invisible bullets, the perpetrator is ultimately discovered to possess a genetic mutation triggered by "an evolutionary response to centuries of social and linguistic oppression."
What follows is a fast-paced potpourri of stock footage combined with sign-language and stroboscopic action sequences performed by a deaf cast, video effects simulating grainy, scratchy film stock and that aforementioned all-enveloping sound mix, with an end result that proves as wildly inventive as it is empowering.

Given how much stuff Insolera, who also stars as an intelligence agency operative, manages to cram into the 68-minute running time, it would be intriguing to see what this fresh, unique filmmaking voice could do armed with a more extensive canvas and matching budget.

SIGN GENE IN CANNES, UN SUCCESSO SULLA CROISETTE

カンヌ国際映画祭に出品された映画「サイン・ジーン」はエミリオ・インソレラが監督するアクション映画で、キャストと映画製作クルーはろう者で成り立っている。手話により超能力を操るという内容だ。


カンヌ国際映画祭の豪華キャストにはケイト・ブランシェット、スパイク・リー、アリス・ローワーワーシャー、クリステン・スチュワート、ガスパ・ノエ、ジュリアン・ムーア、ジェーン・フォンダ、ナオミ・キャンベル、ベラ・ハディド、ハビエル・バルデム、ペネロペ・クルス、ポール・ダーノ、ゾーイ・カザン、ジョン・トラボルタ、ケリー・プレストンなどのビックスターが揃い、その中でエミリオ・インソレラとそのパートナーであるキャロラ・インソレラはパレスフェスティバルにてレッドカーペットを歩いた。

イタリア人映画監督であり俳優でもあるエミリオ・インソレラと妻のノルウェー人モデル兼女優のキャロラ・インソレラが揃って入場すると、蝶のようにひらひらと空中で手が振られ、手話での拍手にて歓迎された。二人は観客に挨拶を交わしながら手話で会話を行う姿はカンヌの夜の光に照らされていた。

ブエノス・アイレスにてろうイタリア人の両親から生まれたエミリオは、キャロラと同じく生まれつきの聴覚障害であり、ワシントンのギャレット大学にて言語学と映画製作について学び、ローマのサンピエンツア大学にてコミュニケーションを学んだ。「映画の中で、聴覚障害者は遺伝子変異により生まれた特別な遺伝子を守るスーパーヒーロであり、現実の世界でも聴覚障害者は視覚的言語を守っている存在である。この映画は聴覚障害者の存在とその意義とを結びつけている。」とエミリオはマジェスティックホテルにて開かれたイタリアパビリオンにて通訳者を通して話していた。

「この映画が少々複雑であると言われるのは、まだメディアレベルでは多くの人に知られていない様々な聴覚障害者に対する歴史と文化を取り込んでいるからであり、速いテンポとサウンドエフェクトにて進行する映画は一部の人にとっては多少刺激的すぎるかもしれない。
使用する機材などが映画の価値を左右するといいますが、この映画を製作した動機を知っていただけたら機材は関係ないと思っていただけると思う。ソニー3CCDにて撮影され、製作費用はたった25000ドルのインディー映画はイタリア・日本・アメリカにて撮影が行われました。主人公のトム・クラーク(エミリオ・インソレラ主演)はおよそ2世紀前に手話をアメリカに持ち込んだフランスの有名科学者であるローレント・クレークの血を引くろう者である。トムは強力な力を操ることのできる突然変異遺伝子サインジーン”SGx29”の保有者であり、ニューヨークのQ.I.A.ことクインパーエージェンシー(ペンタゴンに所属する秘密組織で突然変異遺伝子サインジーン所有者によって組織されている)に所属している。トムは手話を使用することによってのみ、超能力を発揮出来る。突然変異遺伝子「サイン・ジーン」の根絶を図る闇の組織1.8.8.0.を率いる、実の弟であるジャックス・クラークとの長きに渡る戦いにより、トムは全ての超能力を失ってしまう。Q.I.A.の代表であるヒュー・デニソンは日本の大阪にて様々な犯罪を犯す、ろうミュータント組織を撲滅するミッションにトムと同僚のケン・ワンを送った。このミッションの中でトムは全ての力を失ったわけではないことに気づいていく。この映画はとても新鮮でユニークな内容を含んでおり、また速いテンポとサウンドエフェクトによって聴覚障害者の演じるキャラクターの手話とアクションにより物語が進行していきます。」

この映画はイタリアとまた海外での公開を控えているとロサンゼルス・タイムズ紙にコメントした。

パシフィック・スタンダード:手話が超能力となる日

手話が超能力となる日
コービー・マクドナルド

エミリオ・インソラはイタリアで育ち、子供の頃から映画製作をしたいという夢を持っていました。遺伝子的にも、祖母は有名な映画監督フォデリコ・フェリーニとも共演したこともある女優でした。しかしながら、幼き頃、インソレラが自身の夢を祖母に打ち明けた時にはあまりにも単刀直入に「ろうあ者のあなたには無理だからやめておきない。」と予想外の答えが返っていたと言います。
もちろん、インソレラがその教えを守る事はありませんでした。
4月13日にインソレラの初製作映画「サイン・ジーン -Sign Gene-」がロサンゼルスにあるLaemmleシアターにてアメリカデビューを果たしました。遺伝子変化により超能力を授かったろう者がスーパーヒーローとなる物語。この自主映画は3ヵ国で撮影され、出演者は全てろう者またはCOADと呼ばれるろうの家族で構成されています。インソレラはこの映画をろう者、また聴覚者の両方が楽しめるようにと製作を行ったとのこと。その背景にはこの映画を通して手話の豊かさを理解してもらいたいという思いがある。「ろう者は素敵で、創造的で、そして楽しい生活を送っている。」と通訳者を通してインソレラが語ってくれた。今まで映画の中でろう者は、孤立し、他人に依存し、そして悲惨な人生を送っているというような固定観念から描かれているが、インソレラはそれを覆えそうとしている。「そのような映画は時代遅れでつまらない、そして何の刺激の欠片もない。」
手話が超能力を生み出すという映画の内容は多くのろうコミュニティーから、かなりの反響を受けている。19世紀から20世紀には、チャールズ・ダーウィンが「ろう者と馬鹿と野蛮人によって」と侮辱したように、手話は原始的なコミュニケーション方法されてきた。
1900年代始め、ろう学校の教育者(ほとんどが聴覚者)は手話がろう者の社会適合を妨げるとして、アメリカやヨーロッパのほとんどのろう学校で手話を禁止した。
アレクサンダー・グラハム・ベルを含む有名学者は、手話の使用はろう者間結婚を誘発し、更なるろう者の増加を引き起こす可能性があると警告した。その間手話は秘密裏にろうあ者コミュニティーで使用され続け、文化と言語を共有していった。
1960年代、有名な言語学者ウィリアム・ストコエが手話言語の分野を開拓したことにより事態は一変。ストコエはアメリカ手話の文法構造を調査し、手話が実際にただのパントマイムのような動きではなく、他の言語と等しく複雑な文法構造と独特の言語として存在していることを認めました。また、ストコエは手話がただ英語を手で描いているだけに過ぎないという観念を取り除き、実際に手話は英語からはかなり独立した言語であり、独自の文法や構文を持っていると発表。1970年代の障害者に対する権利運動の始まりに連れ、学校での手話の禁止が解消され、ろう者の芸術、文化、そして誇りが爆発的に広がっていきました。
「一般的にろう者であることは欠落(聴覚機能のの欠落)と考えられています。」聴覚障害者のための世界初の大学として知られているワシントンD.C.のギャロデット大学のアメリカ手話言語学科のH・ディルクセン・バウマン学長は次のように述べています。「聴覚障害者の人生は決して何かが欠落したようなものではありません。全くの正反対で、とてもユニークで価値のある人生を送っています。聴覚機能に対しては喪失という言葉が使えたとしても、ろう者になれるという事は決して何かを喪失するような事ではありません。」
ガロデット大学出身者として、インソレラはろう文化に熱中しました。ろう言語学、ろう研究、また子供の頃からの夢であった映画を勉強したと言います。
「その時初めて、自身が共に成長してきた言葉や文化を学術的に理解した。そこで得た知識を、エンターテイメントを通して人々に伝えたい。」とインソレラは思いました。
インソレラは手話による超能力で戦うスーパーヒーローの物語を大学在学中に思いつきました。このアイディアは実際に手話が顔認識や空間情報の処理など、特定の精神機能を実際に高めることができることを示す研究に根ざしています。
バウマン学長は「もちろん映画は少しフィクション要素が混ざっていますが、手話は実際に直接的に脳の認知能力へ大きく関与している。」と言います。
2009年、インソレラは映画「サイン・ジーン」の製作を決定し、アメリカ・イタリア・日本の3か国での撮影の為の資金集めを行いました。ろうあ者と聴覚者、両者向けの映画を作成するというのは至難の技でした。映画の中のほとんどのシーンは手話(アメリカ手話、イタリア手話、日本手話)によって行われており、口頭でのセリフは数多くありません。口頭のセリフ撮影でのこんな苦い思い出を今でもインソレラは思い出すとの事。「OK。カット。今の良かったよ。」
そう言った矢先、他のクルー全員が笑い始めました。実はその出演者はまるっきりセリフを間違えていたそう。インソレラは(その時彼の口の動きを見ておらず気づかなかった)とても恥ずかしい気持ちでいっぱいでしたが「では撮り直し。」と平然を装ったと言います。
その他に苦労した点といえば、視聴者が混乱しない程度に、どのくらい、ろう文化のに背景を映画に含めるかという点でした。
「聴覚者のろうに対する理解を深める為に、基本的なろう歴史を入れる。しかし同時にろう者にとっては有名な話すぎて、ろう者が退屈してしまっては本末転倒である。ちょうどいいバランスを探すのが大変だった。」
映画「サイン・ジーン」は不可解な事件から始まる。アメリカの上院議員のろう者である娘が遺体となって日本で発見され、遺体からは何か超能力的な力によって殺害されたとみられる傷が残っていた。この不可解な事件を解決するため、アメリカ政府はQ.I.A(サイン・ジーン遺伝子を持つ者からなる秘密組織)から2人のエージェントを日本へ派遣した。
インソレラ演じるトム・クレークとダニー・ゴン演じるケン・ワンの2人のエージェントがサイン・ジーン遺伝子の抹消を図る1.8.8.0.と呼ばれる悪の組織が事件に関与していると疑意を持つ。
映画ではほとんどの聴覚者が知らないような歴史や文化を取り入れています。例えば、Q.I.A(クインパールインテリジェンスエージェンシー)のクインパーとは手話言語学の5つの音韻要素:手の形、動き、位置、方向、非手動的な信号を意味しています。エージェントのトム・クレークはアメリカに手話を導入したという、ろう歴史の中でも有名な教育者ローラン・クレークと同じ苗字を使用。また悪の組織1.8.8.0.は学校での手話使用を禁止する決議を行ったイタリアのミラノ会議にちなんでいる。
映画を見た後、聴覚者の視聴者は暗闇に落とされたようなそんな感覚に陥るとよく聞きます。しかしながら、脚本を書き、監督し、そして映画の主役でもあるインソレラは視聴者の反応はそれで良いと言います。映画を通して聴覚障害の経験をして欲しいと思っています。
聴覚障害児は、補聴器や人工内耳のような技術を使用する際に、奇妙で不自然な音がしばしば聞こえます。ただただ鬱陶しい音ですが、インソレラは「私はあえてその音を映画に取り入れることにしました。」との事。
「サイン・ジーン」には遊び心とスタイリッシュな実験的要素、時には視聴者をあっと驚かせるような要素が多く含まれます。(癇癪のある視聴者のために警告文が記載されています。)この映画には、息の止まるような手話を使った武術戦や映画「ブレイド・ランナー」のようなクラシックなSF映画を思い起こさせるような未来主義的な面などがあります。わずか2万5千ドルでこの映画は作成されたというのを、所々で感じることが出来、それが映画をより面白くしています。インソレラはさらにスケールアップいたものをハリウッドに提供できたらと願っています。
近年、特に映画産業はリスク回避の傾向にありますが、映画「ブラック・パンサー」やオスカーを受賞した作品「ザ・サイレント・チャイルド」などが成功したことによって、新しい分野の映画に希望の光が見えてきたようにインソレラは感じています。
「もっと多様的な分野のプロジェクトを刺激することが出来たら、そして映画業界の身を置く人々が更に挑戦し、こうしたタイプの作品にもっと投資することを奨励してほしい。」
今が絶妙なタイミングではないでしょうか。聴覚障害は様々なエンターテインメントに今現在、多く取り上げられています。今年のオスカー受賞作品のうち3作品に手話を話す登場人物が含まれています。お笑いコントショーの「ポートランディア」ではつい最近、アメリカ手話でのコントも放送されました。手話話者でろうであるモデル「ナイル・ディマルコ」はアメリカのモデル発掘番組「ネクスト・トップ・モデル」と他のダンシング番組で2015年、2016年に優勝を果たしています。
「健全な社会生態を図る1つの指標として、考え方や経験そして身体的な多様性がある。」とバウマン教授は述べています。
映画「サイン・ジーン」はまさに多様性の象徴です。映画を見終わった後、全く新しい世界を感じたと思わずにはいられないでしょう。

原文
https://psmag.com/social-justice/sign-language-is-a-superpower

Sunday, October 29, 2017

エミリオ・インソレラ

エミリオ・インソレラ

執筆:Leonard Broersen

映画監督のエミリオ・インソレラは、エンターテメントとドキュメンタリー性を備えた映画を制作するにあたり影響を受けた人々の母国に住み、まさに自身の望んだ人生を歩んでる。
エミリオ氏はアルゼンチンに生まれ、イタリアで育ち、アメリカで教育を受け、そして過去2年間は日本に住んでいる。エミリオ氏の映画制作会社” Pluin Productions”では可能な限り多くの「手話言語コミュニティー」を世間に知らせる事を目標としている。エミリオ氏は「視覚コミュティー」と呼ぶ方が好ましいと言う、このコミュニティーは障害者と区別され、同情されることを望まない新しい世代である。“Pluin Productions”はスレレオタイプの象徴と言えるであろう、ろうの生徒と教師が恋に落ちるという内容の80年代の映画「愛は静けさの中に」(のちにエミリオ氏は明らかに聴覚者により指導されているだろうと教えてくれた)と全く反対の長編映画「サイン・ジーン」を制作している。映画では、手話の方言まで100%正確に「視覚コミュニティー」を描いているという。筆者は今まで手話に方言があるとは知らなかったため、驚いたのだが、手話の話者から見ればイタリアの南や北の方言まで分かるそうだ。映画で手話を話しているように見せかけている俳優も、話者からすれば、見せかけているという事は一目瞭然だそう。これは手話を話すものにとって、とても腹立たしいものでる事には違いない。エミリオ氏の目標はこういった問題を正す事であると言う。
映画サイン・ジーンの制作は波紋を呼び、あるイタリア人言語学者は「視覚コミュニティーの積極的行動を象徴している」と言及している。
手話を使って様々な超能力を使う事ができるろう者が映画の主人公だ。
元々は短編映画で始まったが、参加したいとの申し出が相次ぎ、エミリオ氏は長編映画へ切り替えを決めたという。エミリオ氏は” Deaf Space”” Viable and Deaf Japan”、カゴメからの出資を映画制作に1円足りとも残さず、全て注ぎ込んだとの事。
筆者は予告編を見させていただきましたが、ヘリコプターによる空中撮影や武道シーン、特殊効果は低予算のクオリティを遥かに超えているとの印象を受けました。
ヤマモトカズユキ、ババヒロシ、ダニー・ゴング、チョン・チェンを始めとするたくさんの専門家や俳優、プロダクションの方々全員に感謝し、今からは映画のサウンド作りを始める予定であるとエミリオ氏は話してくれました。
撮影はこれで終了し、”Pluin Productions”は今から映画の最後の仕上げを行うため、サウンドエディターや音楽家を探しているそうです。
来年、様々な国際映画祭で上映される予定の映画に参加出来るだけではなく、あなたの技術を国際的なメディアに知ってもらえるチャンスでもあります。
エミリオ氏はアメリカや日本のテレビ番組にも出演しており、間もなく朝日新聞にも掲載される予定です。



サイン・ジーンの父



サイン・ジーンの父

執筆:Eija Niskanen
写真:Daniel Goertz

エミリオ・インソレラが”Transculture Kid”、すなわち「異なる文化背景の子供」に属しているというのは周知の事実である。
エミリオ氏が腰を据え、今や第二の故郷と呼ぶ大阪にて、今現在、新しいアクション映画「サイン・ジーン」を独自で制作しているという。最新のプロジェクト下では武道、ヤクザといった内容、さらにヘリコプターによる追跡などを取り入れているが、それでいて、ろう者とサイン・ジーンが作品の中心となるよう制作を進めている。もちろん、題名にもあるように手話言語(サイン・ランゲージ)、さらに言えば、何ヶ国語も存在する手話言語が、映画の主題だ。
サイン・ジーンの監督エミリオ氏とはNHKスタジオに向かう途中、渋谷にある東京ジャーナルにてお会いした。監督は陽気な方で、それでいてとてもユーモアに溢れた方であった。筆者はエミリオ氏自身とそして作品制作の経緯について伺った。
エミリオ・インソレラは1979年アルゼンチンにて、イタリア人の父とアルゼンチン人の母の元に生まれる。そして世界中のろう者が学んでいる事で有名な、ワシントン・ギャローデット大学にて映画製作を学び、若き日のエミリオ氏は短編映画を自身で作りたいという意欲を掻き立てられたと言う。そして今現在、大阪にて初の長編映画を作成中。奈良、京都、姫路、ニューヨーク、メリーランドなど、様々な国と地域にて撮影を行っている。
映画サイン・ジーンでは、冒頭から、ろうアメリカ人2名が大阪で殺害されるというように、アクション要素の高い映画となっている。その殺害事件の後、捜査の任務へと特殊部隊の二人組が直ちに日本に派遣される事となる。その二人組の主人公は、一人は自身もろうであるエミリオ氏、もう一人はろうの両親を持つダニー・ゴング氏が演じている。捜査はやがて、ヤクザとの戦いへと発展していくのだが、その過程で二人は難しいシナリオを演じきっている。
映画の中で、登場人物の多くは秘密の力を発揮し、習得していく。秘密の力には、例えば『閉じる』という手話をすれば、扉が閉まる。また、『武器』という手話では、実際に手が武器となり、火を噴出させるといった能力が存在する。映画のワンシーンでは、漢字が重要な意味として使われているが、それはもちろん漢字の多くは実際の形から作られていることが多いという事が関係しているようだ。
また、言うまでもなく、登場人物の持つこれらの特別な力は映画のタイトルでもある『サイン・ジーン』、すなわち、突然変異のサイン遺伝子により発揮されている。想像と現実の世界を織り交ぜる事で、この映画はアクションとSFの二つを要素を網羅している。
サイン・ジーンの俳優やクルーには、ろう者や、ろう者でない方。また、専門家から一般人。そして、日本人、アメリカ人、ヨーロッパまたはアジア人と幅広い人々が存在しているため、映画撮影中、監督の指示は様々な言語に翻訳された。手話には様々な国の言葉があり、エミリオ氏はアルゼンチン、イタリア、アメリカの手話を話すが、最近では日本語手話も少しづつ習得しているというから驚きである。彼の指示は日本語手話、聴覚者に対しては日本語や英語に翻訳される。
映画のキャストは全て人から人への紹介だけで集まったという。エミリオ氏は特にネイティブの手話言語話者を探していたそう。それは、エミリオ氏はろう者を主題とした映画の中で、実際にろう者によって作成されたものは、ほとんどないからである。一般的に映画の中で、ろう者は哀れな被害者役を演じるという傾向に対して、エミリオ氏は強く嫌悪感を示している。そして、それらの映画は、常にろう者に対して、ろう者でないマジョリティーの考え方を反映している。
しかし、サイン・ジーンの映画の中では、ろう者の視点から、実際のろう者の世界を映し出している。もちろん、監督にとってろう者の世界は哀れな犠牲者の集まりではなく、尊厳を持った人々の集まりである。王道の映画の中では、ろう者がろう者ではない人々にとってどう見られているのかという点を描写しており、ろう者から見ると大げさで不自然に他ならない。映画サイン・ジーンではろうに対する問題は扱わず、ろう者、またろう者の家族を持つ人々による、エンターテイメントアクション映画を作成するという事に焦点を置いている。
それに加え、異なる手話言語が映画の中で使われる事は、コミュニケーションに彩りを与え、ユーモアに溢れる映画につながっている。言うまでもなく、映画サイン・ジーンはろう者でもろう者でなくても、全ての人々が楽しめるエンターテインメント映画となっている。放映される国では、その国の字幕が追加される予定です。
エミリオ氏のにはもう一つの目標があると言う。それは様々な国籍間において、文化融合を発展させる事である。

その中で、限られた予算の中で映画を作成させる技術を伝えたいと考えており、低い予算であっても映画を作成するよう日本人ろう者へ勧めている。もちろんエミリオ氏が今後日本を離れた後もいつでも支援を行う考えである。サイン・ジーンは全く新しい、視覚的なコミュニケーションを映画で表現している作品となっています。

Sunday, November 22, 2015